17.ヤドリギのジュエリー
ヤドリギをご存じですか。
英語でミスルトウ (Mistletoe)、漢字では寄生木と書き、文字通り、落葉広葉樹の幹に根を下ろして生活する、常緑の木です。
冬になると多くの木々は葉を落としますが、ヤドリギは青々とした葉を繁らさせたままです。枝は短く、ぜんたいはボールのような丸いかたちに伸びて、枝のところどころに真珠のような白い小さな実をつけています。色を失った冬の木立のなかで、みどり色のヤドリギのボールはひときわ目立ちます。
古代、今のフランスやイギリスに住んでいたケルトの人達は、冬の間、葉が落ちて枯れたようになった木々の生命はこのヤドリギに蓄えられると考えました。厳しい冬が去って春を迎える頃、生命はヤドリギから再び木に行き渡って、よみがえると想像したのです。
そのことからヤドリギはきたるべき春を予感させる植物として人々に愛されるようになりました。
カトリックではクリスマスの前の4週間をアドベント(=待降節)といいます。この時期にヨーロッパの町を旅すると、広場にクリスマス用のさまざまな品を並べた市が立ち、そこで家の玄関の飾りにするためのヤドリギの枝を売っている光景に出会います。
キリスト教の行事であるクリスマスは、いうまでもなくイエス・キリストの生誕を祝う日ですが、実は冬至を祝う祭りの要素も含まれています。一年で一番日中の短い冬至は、逆にその日からまた昼の時間が長くなる、いわば太陽の復活を意味する大事な日です。その大切な日を迎えるのに、春の再来を予感させるヤドリギはもっともふさわしいシンボルといえるでしょう。
さて、今年はこのヤドリギのモチーフがジュエリーとなってミキモトの店頭を飾っています。実はずいぶん前からクリスマスにふさわしい品としていろんな機会に提案をしてきたのですが、それが効を奏したのかどうか、とにかく実現したので早速ピン・ブローチをひとつ求め、スーツの襟に飾っています。このピンは明治末期の御木本真珠店のカタログに掲載されたブローチを元に新しく作られたもので、オリジナルはヨーロッパの意匠でした。博物館では忠実に復元したブローチを展示しています。
小さな真珠をあしらって美しくデザインされたヤドリギのピン・ブローチは、冬空に映える本物のヤドリギ同様に人目を集めています。クリスマス・プレゼントを何にするかで頭を悩ましている方は検討してみてはいかがでしょう。

ミュンヘンの街角で見たヤドリギ

玄関に飾る。
日本の注連飾りのよう

襟元の「ヤドリギ」の
ピン