28.真珠礼讃によせて
3月2日からの企画展「真珠礼賛」は書作品の展示です。いままで写真や陶芸作品の特集をおこなったことはありましたが、書は真珠博物館として初めての試みで、どういう反響があるか楽しみにしています。
私事にわたりますが、三年ほど前から市の講座で篆書と隷書を学び始めました。その講師が今回の作者高潤生さんで、講座の終了後も有志が研究会を作り、指導を仰いでいます。私は研究会で先生の送迎役をつとめているので、いつしか車内で、こういう展覧会ができたらいいね、という話になって、それが実現した次第です。
真珠そのものを題材とした、あるいは真珠に触発された芸術作品はさまざまな分野に見られます。小説などの文芸作品では枚挙にいとまがない程ですし、絵画ではフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を始めとして、真珠が画面のどこかにあらわれる作品は多く残されています。詩歌と密接に結びつく書の作品でも、中国の故事に基づいた「合浦の珠」などに真珠に関する詩句を題材としたものがあるはずですが、真珠そのものに触発された作品は寡聞にして知りません。その意味で画期的な試みといえるでしょう。
今回の作品制作に先駆けて高先生は何度も真珠島を訪れ、博物館で真珠生成の仕組みや養殖の行程を学ばれました。先生によれば、真珠の美しさは「平和」のイメージであり、その輝きをつくり出す緻密な構造は日々のたゆまぬ努力を象徴するもの、そして、なにより清浄な海こそが美しい真珠を生み出すもっとも重要な要素ということです。これらは初めて真珠というものに向き合った芸術家が抱いた純粋な印象であり、多くの人々の共感を得るところでしょう。
では、その印象を芸術家はどのように作品として定着させたか。ここからは常人の及ばぬ世界であり、書家の真骨頂が発揮されるところです。展示は篆刻手法をもとに着彩をほどこした「現代印作」が40点、墨を用いた隷書や金文などの書作品が10点。そして篆刻作品20点の合計70点で構成されます。
真珠そのもののご見学が目的で当博物館にお越しになったお客さまは多少戸惑われるかも知れませんが、書芸術の可能性と、小さな真珠の内面に芸術家が見た美の世界の広がりをご覧いただければと思います。どうぞお楽しみ下さい。

「みずのおと」

作者の高潤生さんと