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41.真珠本の世界

 展示を担当する部門に配属されて最初に企画した展覧会は「2ダースの真珠」というものでした。二十代も終わりの頃のことです。これは「真珠」と表題のついた、あるいは真珠が出てくる小説作品を2ダース、つまり24編集めたもので、そのときに集めた書籍類は今も博物館の図書コーナーに配架してあります。

 並んだ本自体の表題に「真珠」とあるものは少なく、一見しただけでは何が収められているのか見当がつきません。24編は書店のハヤカワミステリや創元推理文庫の棚を片っ端から調べて集めた成果で、当時、入手できる精一杯のコレクションでした。ミステリーに絞った理由は単純で、真珠は盗まれるか、あるいは本物贋物を巡る騒動の小道具として使われやすいだろうとヤマをはったからです。

 面白いことに外国の作品はこの傾向が強く見られます。たとえばモーパッサンの「宝石」という短篇やロシアの作家レスコーフの『真珠の首飾り』、モームの同名の作品、「物識り先生」という短篇も真珠の真贋に関する駆け引きを描いた作品です。先年、選集が出たウッドハウスのジーヴス物にも「真珠の涙」なる短篇が収められていますが、やはり贋物を巡る話です。

 さて、最近入手した図書をご紹介しましょう。いずれも「真珠」を表題に使ってはいるが、話の展開に真珠そのものはまったく関与しません。

 まず、山岡荘八の『真珠は泣かず』。『徳川家康』など歴史物で知られる著者の、戦後間もない時期の作で、いわゆる通俗小説の類です。戦争の痛手からようやく立ち直って平穏な生活を営みはじめた一家を襲う悲劇、とでも本の帯にありそうな話で、粗悪な紙と不鮮明な活字と雑な製本に往生しながら通読しましたが、筋を紹介するまでもないでしょう。全編を通じて真珠という言葉が現れるのはたった2ヶ所で、女主人公が見せる涙の形容として使われています。はて、それでは「真珠は泣かず」とはどういう意味なのか。

 同じく戦後間もない昭和24年の久米正雄著『三つの真珠』も真珠の出てこない小説です。戦後没落した一家とそのもとの邸宅に越してきた美しい三姉妹を巡る話で、表題の示すところは明らかすぎるくらい。作品中には一ヶ所、末妹の眼をあらわして「黒真珠」とあるに過ぎません。まあ、それはそれとして、類型的な登場人物とスピード感ある場面展開、それに幸せな結末が予想されて、結構楽しく読むことができました。久米正雄は前書きで、菊池寛の中絶した遺作を模倣して書いた、と記していますが、そういえば菊池の『真珠夫人』もまた、真珠の出てこない真珠小説です。もしかしたら通俗小説の分野にこの手の本の鉱脈というか貝床があるのかも知れません。

 養殖真珠の生産国としてその実際的な側面を知っている我が国で、文芸の分野ではむしろロマンチックなイメージを真珠に付与してきたことはおもしろく感じられます。一方では宮尾登美子の「連」や津村節子の『海の星座』のように、真珠を生業とする人々の激しいまでの生き方を描いた作品もあって、なかなかこの世界も奥が深い。

久米正雄著『三つの真珠』表紙

久米正雄著『三つの真珠』表紙



真珠博物館2階 レファレンス・図書コーナー

真珠博物館2階
レファレンス・図書コーナー

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