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65.コベルトフネガイ

 海女のひとりが図書コーナーで貝の図鑑を開いています。何を調べているのかと尋ねたら、海に潜って奇妙な貝を見た。その名前を知りたいというので、それではひとつ見本を採ってきて下さい、とお願いしました。

 果たして、彼女が次の海女作業で採取してきたのは、一見、泥のかたまりのようなもの。付着したフジツボやホヤを取り除くと、ぜんたいの形があらわれました。10センチほどの二枚貝で、貝殻のちょうつがいの左右が高く膨らんでいます。だいたいの見当をつけて、『原色日本貝類図鑑』を繰り、コベルトフネガイと確認しました。

 図鑑の説明ではフネガイ科の貝は食用に供せられるものも多い、とあります。ネット検索によれば酒蒸しにすると美味しいらしい。彼女に、採集者が持ち帰って実検分するように、というと、なぜかうれしそうに笑います。好奇心旺盛な海女さんです。

 翌日、通勤途中に後ろから呼び止められました。持ち帰ったコベルトフネガイを酒蒸しにしたところ、濃い出汁が出て、身は甘く、なかなか美味しかったといいます。そうか、お腹痛くならなかったのか、もしかしたら隠れた珍味かも知れない。それでは今日、少し採って貰えないだろうか、とお願いしておきました。

 その日の夕方に届けられたのは、昨日よりは小さく全長は7センチほどのもの6固体。同室の松崎君と半分ずつ持ち帰り、それぞれ酒蒸しと味噌汁で試すことにしました。

 鍋に酒(ゴールド賀茂鶴)と水を半々に入れ、沸かした中に洗った貝を投入、湯気が上がるのを見計らって蓋を開けると磯の香りが立ち上ります。ふむふむ、これはいけそうかな。まず、底に溜まったうす茶色の汁を味わう。貝の持つ旨みと自然の塩味が凝縮した、確かに美味しい汁です。これは身のほうも期待できるかと、外側の外套膜を剥ぎ取ってちょうど貝殻の膨らんだ部分に当たる肉に齧り付きました。が、歯が立たない。毟り取って、見るとどうもこれが筋肉質で、なんども咀嚼しているうちにだんだん軟化したけれど、その歯ごたえはなかなかワイルドなものです。内臓部分は甘いといえば甘いけれど多少生臭さもある。どなたにもお勧めできるとは言いかねますが、磯臭さがお嫌いでない向きには野趣豊かな珍味として、お試しになるのも一興かと存じます。身だけを甘鹹く煮るとか、バター風味にするといいかもしれない。

 味噌汁の出来はあまり思わしいものではなかった様子でした。

 してみると、アサリやハマグリ、ホタテにアワビ、サザエ、トリガイなど、世の美味なる貝がいかに選ばれた稀な存在であることか、実感できます。長い人類の歴史でコベルトフネガイを食べる、という行動に出た先人もおそらくいたはずですが、食料としての選に漏れて結果的に人との関わりを持つことなく、ひっそりと生息している。まあ、貝にしてみればそのほうが気楽かも知れません。

 ちなみに名前の「コベルト」はドイツの貝類学者ウィルヘルム・コベルト(1840~1916)のこと。いくつかの貝の和名や淡水貝の学名にその名が残っています。

 


       調理前



     殻長7センチ

 

       貝殻と身

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