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70.図書収集日記 4月某日 NEW!!

 ネットの古書店は便利だが、ときには失敗もある。なんといっても実物を見ずに注文するので、見当が外れる恐れは大きい。先頃入手した河村直則『真珠と小鳥』 京文社 一九二九年もそのひとつ。届いた梱包の薄さに不吉な予感がして、開封すると歌曲の楽譜集でした。もっとも古書店の見出しには「少女小曲創作選集」とあったので、わたしの不注意以外のなにものでもないのだけれど。  

 それでも歌曲であろうと収録作品中に真珠を取り上げたものがあればまだ良い。だが、目次を一瞥してはかない望みは絶たれた。いずれも真珠とは関係のない曲名ばかりだったので。

 あとがきには〈『真珠と小鳥』は私の作品の中で少女に愛誦さるべきものの中から選んだ曲集です〉とあって、それぞれの曲の概要と歌い方について述べている。けれど肝心の表題の由来にまったく言及していないのは著者が作曲家だからか。ちなみに収録曲の題名は「春風ほうほう」「たんぽぽ」「ほろほろ鳥」「木蓮」「月夜」「落椿」「ねむれ椰子の木」「海へ行く道」「想夫恋」で、真珠でもなければ小鳥でもない。これでは、北京でもなければ春でもないので自作に『北京の春』と表題をつけたと嘯くボリス・ヴィアンみたい、と思ったりして。

  著者の河村直則は戦前戦中にかけて活躍した作曲家で、「グッドバイ」や「かもめの水兵さん」「赤い帽子白い帽子」「りんごのひとりごと」などの作品を世に送ったという。まるこ幼稚園に通っていた頃のわたしの愛唱歌はこの人の作曲だったのか。親しみやすいメロディがたちどころに再生されてくる。ここに収録されている佐藤義美の難解なる詩「ほろほろ鳥」に曲を付けて世に認められたというから、河村にとって『真珠と小鳥』は出世作で、楽譜集が古書として評価される所以だろう。

 それぞれの歌詞中にはすずめや鳩、いんこ、かもめ、ほろほろ鳥などがあらわれる(かもめやほろほろ鳥は大きすぎるが)ので小鳥の方はまだ言い訳が立つが、真珠はどこにも見当たらない。表紙の絵の中央はゆりかごに眠る子供をねずみが揺らしているように見え、その周囲には装飾風に木の枝が描かれてすずめやみみずく、からすのような鳥が枝に止まって子供を見ているので、くどいようだが小鳥はわかる。だが、真珠はどこにあるのか。どこへいったのか。

 良きもの、小さく愛らしいもの、可憐で美しいものとして真珠の語が一般に了解されていた例は、特に叙情文芸の分野で多くを挙げることができる。ただしその場合、普通は作品中にわずかでも関連の手がかりを残しておくもので、そういった片鱗すら見せないのに、著者も出版社も『真珠と小鳥』の表題を妥当とし、そして読者もそれに違和感を覚えることなく受け止めたのだろうか。「この楽譜集のどこが真珠なのですか」と河村先生に質問のお便りを出した人はいなかったのかな。

 ともあれ、「真珠」という言葉の万能性と有効性を立証する物件のひとつを入手出来たと考えて、6,300円(送料込)の支払いを納得することにしました。

 河村直則『真珠と小鳥』

    

    

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