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74.『真珠の世界史』を読む NEW!!

 9月某日 山田篤美さんの新著『真珠の世界史』(中公新書、940円+税)を面白く読んだ。これは日本語で書かれた、初めての真珠の通史です。交易品としての真珠の価値がどう変化してきたかをわかりやすく解き明かしてくれる、知の好奇心に満ちた一冊で、専門書の体裁でなく、新書で出版されたのも喜ばしい。
 一読すると、学校の世界史で習った様々な事件や出来事の背景に真珠が見え隠れしていたことがわかってきます。たとえば新大陸の発見。1498年、第三回の航海でコロンブスは南米ベネズエラに到着、住民が真珠で身を飾っているのを見て狂喜します。これは新大陸の発見であると同時に、西欧人が求めてやまない真珠の新しい産地発見でもあった。それまで真珠はペルシャ湾か紅海、あるいはインド、セイロンといった東洋の産だったのが、これ以降、アメリカも産地として注目されることになります。けれど、真珠採りはどこでも厳しい仕事であることに変わりありません。
 著者は前著『黄金郷伝説』でスペイン人がこの地で犯した略奪と殺戮に触れていますが、本書の第4章「大航海時代の真珠狂想曲」でその極悪非道ぶりが再現されます。初めこそ友好的に真珠との物々交換に応じていたベネズエラの人々は、次第にエスカレートするスペイン人の要求に反抗。すると態度を一転させた侵略者は威嚇を始めて、ついに闘争が起こり、敗者となった現地住民は捕らえられて奴隷として連れ去られます。また、ベネズエラの無人島には泳ぎの上手いインディオたちが拉致されて、過酷な潜水労働の結果、住民が全滅する悲劇を招いたという。ペルシャ湾の真珠採りも厳しい作業だったに違いありませんが、彼らは仕事に誇りを持っていたといわれています。少なくとも強制労働ではない。真珠が涙の象徴とされるのは、こういう採取の実態が僅かながらでも知られていたのではと思いたくなる話です。
 19世紀、大英帝国は真珠の産地であるセイロンとペルシャ湾を支配下に置きます。そこではどんな方法で採取が行われ、流通していたか。そして20世紀のアメリカで真珠の価値がなぜ上昇し、バブル現象を生んだか。こういうトピックはいままで断片的には語られてきましたが、本書は時々の社会現象とともに因果関係をきちんと説明しています。このあたりの分析は歴史家としての著者の本領といえるでしょう。その頃活躍したパリの真珠商レオナール・ローゼンタールやジャック・カルティエの権謀術数を駆使した真珠産地の独占と価格操作、そして養殖真珠の登場とそれに対する反発、株の暴落に伴う真珠の価値崩壊と、この一連の筋書きが見事に整理されている。散らばったピースを組み上げて、俯瞰図として提示したという点でも、本書の刊行は意義深いものがあります。
 巻末の文献目録からもわかるように、著者は相当の資料を読み込んでいて、その熱意に敬意を表します。一次資料を熟読し、考察するという真っ当な手法が結実した、これは真珠に関心を持つものにとって必ず眼を通すべき、示唆に富んだ書物です。
 なお、帯に使われたジュエリーは当館の所蔵品「雄羊」。本書の発刊を記念して、ただいま博物館で展示中です。

真珠の世界史   

雄羊のジュエリー

雄羊のジュエリー展示風景

    

    

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