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81. シジミ

 図書検索で『しじみからのおくりもの』という本を見つけた。くんくん、何やら真珠の匂いがするぞと入手したら、これが当り。シジミから出た真珠にまつわる話でした。
 主人公は小学校6年と3年の姉妹。ふたりの父親は交通事故で亡くなり、母親はその心痛と過労で入院中という辛い境遇にあって、学校ではそのことで苛めを受けるが、姉妹助け合って健気に生きようとしている。
 ある晩、シジミの味噌汁を食べていた妹が何かを噛み当てた。出してみると丸い小さな粒で、ほんのり桜色に輝いている。ふたりが興奮して取り合いしているうちに、その珠は手から落ちてしまい、懸命に探すが見つからなかった。ふたりにとってシジミは家族で房総の海に遊んだ記憶と分かちがたく結びついていて、話は優しかった父親との回想となってゆきます。
 母親を見舞いにいった病院でシジミの真珠のことを話して、同じ病室の人達を和やかな気持ちにさせた姉妹は、家に帰って真珠探しを続行すると、未整理の書類の中に父親からの懐かしい手紙を見つける。手紙を読んだふたりは改めて父親の愛情の深さにうたれ、真珠よりも大切なものがここにあるといって、探すのを諦めようと約束します。
 このあとふたりは揃って眠りに誘われ、不思議な声と会話を交わして、真珠の由来とその在りかを聞く。そしてなくした真珠を父親の筆箱から見つけ出します。ふたりが聞いたのは、貝の中から真珠を取り上げたふたりに対するシジミからの感謝のメッセージで、真珠はシジミに刺さったとげが時間をかけて変化したものだった。というわけで、これは小さなシジミが苦しみに耐えて真珠を作り出したことへの賞賛と、それを励みに強く生きようとする姉妹の姿を描いた児童文学でした。真珠を苦しみの末に生み出された宝と捉えた、その意味では古典的な設定ですが、シジミの真珠とは意表を突かれた思い。
 ところが作者の木下宣子さんは高校の教師をしていた頃、「指先ほどのシジミ貝が身いっぱいに真珠を抱いていた事実」を生徒に語り、それをもとにオペラを発表、その後、小説を執筆したというから、実際にシジミの真珠を得たことがあったのでしょう。
 シジミの真珠に関して、日本貝類学会研究連絡誌「ちりぼたん」第16巻第4号(昭和61年2月)に発表された高橋茂さんの報告によると、群馬県中之条町の養魚池にマシジミが繁殖、12年ぶりに水抜き掃除をしたところ、4センチから6センチ大のものが約100キロ採取され、報告者はそのうちの200個体を譲り受けて調査、5㎝内外の130個体から17個の天然真珠を得た。真珠の大きさは1.8ミリ~9.8ミリで形は一定せず、色は白、淡紫と様々で光沢の弱いものが多かったという。マシジミは淡水に生息する種類で、ふつう3センチほどだから、これは貝自体が異例の大きさというべきです。一方、河口や淡水の影響する内湾に生息するヤマトシジミは3センチから5センチ。外面は漆黒の光沢ある黄褐色から黒色で内面は白っぽく、紺色に縁どられる。普通、食用にされるのはこちらの方です。
 どんな貝でもその貝殻内面に応じた真珠を作り出すことは、博物館で標本を展示して紹介していますが、残念ながらシジミの真珠は収蔵していません。土用の頃、シジミが我が家の食卓に上り、小さな身をことごとく穿り出して食べたけれど、何一つとして出てこなかった。おそらくは真珠を抱くには若すぎる貝ばかりだったのかも知れません。真珠層がないとはいえ、貝殻の縁のような美しい紺色の珠が出てきそうな気がするのですが。


 

木下宣子作・平島毅絵『しじみからのおくりもの』国土社、2011年

 

 

食卓に上がった真珠(真珠博物館1F展示室)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

    

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