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84. 「牡羊」

 今年は羊年。当博物館にはその干支の動物がいるのですが、あまり気が付かれないようで、どうもその形に理由があるのかも知れません(写真1)。ご覧になってすぐさま羊と判る方は少数で、多く(私の案内経験では9割方)は馬と見るようです。それも無理はないので、脚の様子などまるでギャロップみたいですからね。普通、羊といえばおとなしく従順な動物の代表みたいに思われているので、こういう勇ましい羊の姿は意外といえば意外でしょう。これは羊でも牡羊です。『世界シンボル大辞典』(大修館書店)に従えば「血気盛んで勇ましく、直感的で力強い牡羊は、季節の春と同様に人生の春に、人間と世界を目覚めさせ、生命サイクルの再生を保障する生殖力を象徴する」とあり、不敵な面構えと躍動する四肢はまさしくそれにふさわしい造形です。ちなみに普通、羊をジュエリーにする場合、小さな真珠を全身にまとわせて、羊毛のふっくらした様子を表現することが多く、その意味では異例というべきかも知れません。
 英語では牡羊、牝羊、子羊のそれぞれに違う名前が与えられていることはご存知の通りです。牡羊はラム、牝羊がシープ、子羊もラム。ですが、牡羊は(Ram)であるのに対し子羊は(Lamb)。この発音は日本人にはもはや区別不可能です。フレンチで供されるのは子羊のラムで、ジンギスカン鍋のマトン(Mutton)は成長した羊の肉。一方で羊の皮を加工したムートン(Mouton)という素材があって、こちらも紛らわしい。ともかく、文化圏によってこだわりが異なることを思い知らされます。
 当館の牡羊は胴体に変形真珠を用いて、頭と尻尾、四肢はそれぞれ金(後脚は銀)に白いエナメルで加飾されています。腹にはルビーをはめ込んだ帯を巻いていますがこれには必然性があります。というのもこの作品をレントゲンで検査すると、尻尾から頭まで一本の金具が貫通していて、これが上半身と下半身を繋いでいるように見られるからです。つまり、二個の真珠を合せて牡羊の胴体を形成したので、その結合部に装飾を兼ねて帯を付けたのではないか。よく見ると、上半身下半身ともに真珠のかたちがハートのようであることに気づかれるかも知れません。これはクロチョウガイの天然真珠によくあるかたちで、牡羊と並んで展示してある「あざらし」(写真2〉も同じ形状です。両方とも機器分析の結果、クロチョウガイの真珠であることが判明しました。
 でもクロチョウガイの真珠ならどうして黒くないのか、と思われるかも知れません。クロチョウガイの貝殻内面を観察すると、縁は黒いのですがちょうつがいに近い、つまり貝殻の厚みがある部分は銀色です(写真3)。形成の場所や時間によってこうした銀色が生まれることがあるようです。
 この作品は1590年頃に作られたとされますが、出自は不明です。こういう変形真珠はバロックの名称で知られ、使用例はBMやVAなど海外博物館のジュエリールームで多数を見ることができます。イギリスの宝飾史家ヒュー・テイトはBMの所蔵ジュエリーの解説で、こうした真珠は新大陸からもたらされたもので、危険に満ちた航海中の冒険談を伴っているはずだと述べていますが、この牡羊はどんな記憶を留めているのでしょうか。


 

(写真1)牡羊のペンダント 1590年頃

 

 

(写真2)あざらしのブローチ 1720年頃

 

 

(写真3)クロチョウガイの貝殻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

    

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