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94. ハンドリング・セミナー

  6月某日 大阪から客人あり、収蔵品を使ってハンドリング・セミナーを開催した。ハンドリング、すなわち、実際にジュエリーを手に取って学ぶセミナーはもう二十年近く前に始まり、当初、宝飾に関わる職人さんの研究会だったものが、次第に幅が広がって、今ではジュエリーに興味を持つ人たちの参加や、一般ツアーの特典として小団体で受講を希望される場合もあります。セミナーはまず、収蔵品の中から選んだ作品の概要や時代背景、ディテールなど画像を使って説明、その後、参加者各自が実際にルーペを使って観察を行う。普段はガラス越しに一定の方向からしか見られないのが、手に取って裏も細部もつぶさに観察することで様々な発見があって、こちらとしても実際に制作に携わる技術者の意見は大変示唆に富んでおり、作品解釈上の貴重なヒントを貰ったことも数知れず。
 職人さんたちの視点は、どうやってこの作品を作ったかという技法解明に集中し、それは実際の制作にあたっていればこそ。たとえばここに昭和8年頃の作と思われる御木本真珠店の帯留があります(写真①)。ホワイトゴールド製、横7,2㌢。中心に8㍉の真円真珠を配し、左右に放射状のラインを持つ。リボンを直線的にアレンジした、アールデコの影響下にあると思われるデザインは両側に広がる面の細部が亀甲文様の小さなパーツで構成されて、それぞれに小さな真珠を二つ、爪で留め、外周に御木本が得意としたミルグレインの細かい装飾が施されている(写真②、③)。問題はこのパーツで、すべてが切り抜かれ、それが裏側の細い線材で互いにロウ付け固定されて面を構成している(写真④)。糸鋸で切り取った小さなパーツを一定の間隔を保ちながら凹凸のないように再び小さな空間に固定するのは至難の業と思われるが、いったいどういう方法で実現したのか、侃々諤々、甲論乙駁。亀甲パーツは6㍉×3㍉ほど、それぞれの隙間は0,3㍉もあるだろうか。想像するにこの隙間に鋸が入ったはずだが、ふつう、そんなところに注意は向きません。
 この時の推論は以下の通り。まず、金属板の亀甲の周囲何か所を糸鋸で引き、その切れ目をつなぐ形で裏から隣り合った同士を線材でロウ付けする。そうして今度はそれ以外の輪郭を切り離すとそれぞれはロウ付けした線でつながっているから抜け落ちることはなく、上からは隙間が際立って亀甲が中空に浮かび上がって見えるのではないか、ということになった。そうか、そうでないか。別の技術者には別の意見があるかも知れない。
 展示室で作品を見ている分には細部に注意を向ける人は多くないし、また、ハンドリングしたとしても一般の見学者がそこまで疑問をいだくことはありません。けれど、職人の目は違う。自分ならどうするかを考える。80年も前の御木本金細工工場の職人と言葉を交わし、その技法を探る。そして手間と時間をふんだんに費やして、自分の納得できる作品を仕上げることが許された時代の職人の幸福を思うのです。
 近頃では明治工芸の超絶技法が取り上げられ、再認識されているが、ジュエリーもまた、その細部に見るべきものを多く抱えている。どなた様にもとは言わないが、ディープな楽しみ方として披露しておきます。


 

写真①

 

写真②

 

写真③

 

写真④

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