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104. 犬のブローチ

  戌年に因んで犬をモチーフにしたブローチ(兼用ペンダント)をご紹介します。画像ではわかりにくいかも知れませんが、透明な半球状の水晶の中に犬の顔が立体となって見えています。これはドーム型の水晶に裏側から彫りを入れ、凹部に着彩が施されたもので、ドームの表側から見れば、不思議、三次元の立体が現れるという仕掛けです。ベースにシロチョウガイの板を置いているため、背景は靄がかかったように見えて、そこに浮かび上がる犬の愛らしい表情も見飽きることがありません。周囲はハーフパールと薄緑色のエナメルで飾られており、小ぶりながら存在感のある品です。
 ブローチ台座は金で、裏面にMother to Kathleen June,20,1910と刻字されています。犬の図像は忠実、貞節あるいは慎重を意味しているので、嫁ぐ娘に教訓の意味を込めて贈ったのかも知れません。
 この技法はリバース・インタリオ(リバースド・クリスタル・インタリオとも)と呼ばれ、19世紀後半から20世紀にかけて、イギリスを中心として流行しました。インタリオは浮彫のカメオと反対の沈み彫り技法で、そのリバース、つまり図柄が裏返しというわけです。リバース・インタリオの多くは動物を主題に選んでおり(馬とか犬、あるいはキジなど)、カフスやスカーフピンの飾りとして男性が着用するケースも多く、これらはスポーティング・ジュエリーと呼ばれています。
 一般的なリバース・インタリオは半球状ですが、このドームをふたつあわせて球体にした品があります。それぞれの半球に、たとえば金魚の片身を彫刻・着彩して、あわせて留めてしまえば、水玉の中を泳ぐかの如き姿が現出します。球体の上部に金具を取り付けて、イヤリングにすれば注目されること間違いなし。19世紀の終わり、イギリスで日本趣味が流行したころのジュエリーです。
 このリバース・インタリオ技法で動物の顔を刻んだものの中には、ブローチに仕立てた裏側に毛をひと房入れ、メモリアル・ジュエリーとした例のあったことが近年のジュエリー研究書で紹介されています。愛犬の毛を封入し、裏に追憶のための刻字を入れて、人と変わらぬ、あるいはそれ以上の扱いです。一般に人を偲ぶ意味で作られたメモリアル・ジュエリーには裏面に収納スペースがあって、きれいにかたちを整えて装飾した髪の毛を納める場合が多いのですが、こうした追慕の範囲はペットにまで及んでいたことがわかります。
 昨今のペットブームを見れば、我が国でもこうした品が受け入れられる可能性は十分に考えられますが、どうでしょうか。今ならアクリル樹脂を用いれば自由な造形が出来、いろいろな素材を含浸することも可能なので、リバース・インタリオと同じような立体効果を求めることは簡単になったように思われます。けれどもアンティーク同様の味わいを求めるなら、やはり水晶。となれば甲府の職人さんたちの出番です。印鑑作りの技術を以てすれば、精密な、付加価値の高いジュエリーが誕生するかも知れません。
(今回の記述の多くはGere,C.&Rudoe,J. ‘Jewellery in the Age of Queen Victoria’  The British Museum Press, 2010 に依っています)

 

 

 

 

 

 

 

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