知る 学ぶ 楽しむ
真珠王からのメッセージ 海女 パールミュージアムコレクション 入場料金 チケット情報 営業案内 アクセス 真珠島のパワースポット 島内マップ よくあるご質問 ホームに戻る

113. 「マドモワゼル・ペルル」

 真珠の出てくる小説を集めて今では260タイトルを超えるほどになった。その中から冬に相応しい掌編をご紹介しましょう。モーパッサン「マドモワゼル・ペルル(真珠嬢)」(1886年)です。
 パリの天文台近くに住むシャンタル氏は五六歳。一家は夫妻とふたりの令嬢、それにマドモワゼル・ペルルと呼ばれる四〇歳くらいの女性がいて、彼女は家族からは一歩控えていたが、使用人とは別格の不思議な存在だった。
 若いガストン君は父親がシャンタル氏と交際があったので、一月の主顕祭には同家を訪れて晩餐を共にするのを習わしにしている。その席上で「王様遊び」の王様に選ばれた。これは切り分けられた菓子の中から小さな陶器製の人形を取り上げたものがその場の王様として振舞う遊びで、王様となったガストン君は女王を指名しなくてはならない。一七歳と一九歳になる可憐なふたりの令嬢のどちらかを選ぶのは〈二滴の水のどちらかを選ぶよりむずかしい〉と思った彼は今年の女王にマドモワゼル・ペルルを指名した。顔を赤らめ、戸惑いながら辞退のことばを繰り返す彼女の姿をあらためて観察するガストン君。ペルル嬢の穏やかな額や優しげで無垢のままの青い瞳、愛らしい口やきれいな歯に見とれ、その上品さに驚くのだった。
 晩餐後、ガストン君はシャンタル氏と玉突き場で葉巻をくゆらせながら、マドモワゼル・ペルルがシャンタル家に来たいきさつを聞く。四一年前、大雪の降る主顕祭の夜に赤ん坊の彼女は一万フランの持参金とともに、郊外にあったシャンタル家の前に捨てられていたというのだ。シャンタル氏の父親はこの赤ん坊を引き取ることにして、マリ・シモーヌ・クレールと名付けた。
 物心ついた頃に養女であることを聞かされた彼女は、自分の立場を本能で理解し、利発で上品な女の子に成長した。彼女が何か良いことや、可愛いことを言ったときなど、シャンタル氏の母親はいつも眼鏡を額の上にあげて〈「真珠ですよ、ほんとに真珠ですよ、この子は!」〉と褒めたたえ、それでマドモワゼル・ペルルとなった、とシャンタル氏は述懐する。時おり物思いにふけるようなシャンタル氏の話しぶりから、ガストン君は氏が若い頃ペルル嬢に心惹かれていたと推察し、それを指摘すると果たしてシャンタル氏は涙ぐむ始末。おそらく相手も同じ思いだったと推察して、部屋に戻り、そっとペルル嬢にそのことを告げると、こちらは失神する騒ぎとなった。だが、来る春の宵、二人は互いに手を取り合うことで一瞬にして陶酔を感じ、〈他の人間が一生かかって摘み取る以上の幸福を〉得るだろうとガストン君は予感する。
 主顕祭は東方の三博士がベツレヘムに誕生のキリストを訪れた祝日(1月6日)。宝石の輝きに対して冷淡だったといわれるモーパッサンですが、真珠は別格の扱い。この語が貴重な美しいもの、宝物、精華などの好ましい意味を持つことは欧米語の辞書を見れば明らかで、パール、マルガリータ、マージョリーなど女子の名前としても使われることはご承知の通りです。謎に包まれた出自や、目立たない衣装、すなわち貝殻に包まれながら、美しく輝く内面を持つ女性にふさわしい名前といえるでしょう。

 

 

 

 

青柳瑞穂訳『モーパッサン短編集Ⅱ』新潮文庫 1971年 所収

 

 

私の本棚 いずれご紹介

バックナンバー一覧に戻る
page top
  • 御木本幸吉記念館
  • 真珠博物館
  • 館長のページ