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128. 「真珠研究の今」

 前回のこのページで理科系の真珠研究に多くの業績があると述べたが、では実際にどのようなものなのか。あまり日常では目にすることもないと思うので、ここでご紹介しておこう。まず、最新の図書として『真珠研究の今を伝える』が3月に恒星社厚生閣から出版された。これは渡部終五・永井清仁・前山薫の三氏が編者となって、2018年11月30日と12月1日に当館で開催された真珠研究シンポジウムの講演内容をまとめたものである。このシンポジウムは御木本幸吉の養殖真珠発明125周年を記念して行われ、その要旨集はすでにネット上に公開されているが、図書として手に取ることができるのを喜びたい。ちなみにこの時の参加者は107名で、会場となった博物館のホールの定員一杯であった。場内は密閉、密集、密接という、今にして思えばとんでもない三密状態だったわけである。
 本書の冒頭でミキモト真珠研究所の永井清仁さんが「養殖真珠研究の歩み」と題して真珠成因研究史から説き起こし、養殖産業の発展、そして今日抱える問題と今後の展望について明快な見取り図を示してくれる。続いて増養殖研究所の淡路雅彦さんが真珠の出来る仕組みについて、主に外套膜と真珠袋の細胞の機能から解き明かす。添えられたカラー写真と合わせてみれば、少し勉強したことのある方には復習も兼ねて、より一層理解が深まるに違いない。なお、淡路さんの岳父は水産庁(当時)で真珠研究に従事された町井昭先生で、一般向けの啓蒙書として書かれた『真珠物語』(裳華房、1995年)では外套膜の組織培養による結晶の生成を記録されている。以下、アコヤガイの系統を最新のゲノム研究からアプローチを試みた論考、実際の養殖現場での系統保存の例と続き、真珠の色調にかかわる遺伝子の探索、と章を追うごとに専門性が高くなってゆく。
 実際のところ、一般読者向の啓蒙書ではないからレベルは高く、通読しても、そもそもどこまで理解が及ぶのか、はなはだ心もとないのは事実だ。理科の素養がないものにとっては、たとえば「1990年代から分子生物学の急速な進歩により遺伝子の塩基配列を決定できるようになり、塩基配列からタンパク質の全アミノ酸配列を決定できるようになった。」(鈴木道生「真珠層形成の機能タンパク質」124㌻)という一文ですら謎めいて見える。真珠層に含まれるタンパク質の解析もその延長線上にあるのだが、遺伝子の塩基配列、全アミノ酸配列という馴染みの薄い分子生物学の用語を理解するのに、まずはタンパク質について書かれた入門書のお世話になるとしよう。今、手元にある武村政春著『たんぱく質入門』(講談社ブルーバックス、2011年)を参照すると、タンパク質はアミノ酸がどのような配列でつながっているかで決まり、アミノ酸の配列は遺伝子の塩基配列で決まる、とある。理科の好きな高校生なら周知の事柄だろうが、まず、このあたりから押さえて置く必要があるかも知れない。弛緩しつつある脳に刺激を与える良い機会だ。
 18人の研究者の論文を収めた本書は、現時点での真珠と真珠貝に関する知見の最先端を一冊に集約しており、同じ出版社の『真珠研究の最前線』(2014年)とともに、仕事上で真珠に何らかの関わりを持つ向きには、一読をとはいわないが、ご所蔵をお勧めしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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