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129. 「若葉の頃」

  4月某日 少し前に取り寄せた’The Steppe and the Sea’を読もうと自宅に持ち帰り、ページを繰ってみる。これはモンゴル帝国で真珠が珍重されていた諸相を取り上げた新刊書で、今までにない方面からのアプローチだ。内陸に興ったモンゴルだから、海の宝石を高く評価したことは想像できるが、何しろこちらにモンゴル帝国の基礎知識が不足している。それで手引書として杉山正明『モンゴル帝国の興亡〈上・下〉』(講談社現代新書)を求めて少し勉強する機会にした。マルコ・ポーロの『東方見聞録』には皇帝クビライが真珠を豊富に産出する日本の征服を企てた記事がある。また、インド沿岸での採取風景も伝えられているので、それらの真珠は当時、世界の最高勢力であったモンゴル帝国内部に蓄積されたと見て良い。同書はモンゴル研究史の紹介から始まり、12世紀のユーラシア情勢を俯瞰する。だが、読み進めるにつれて固有名詞が頻出、錯綜し、行きつ戻りつ。本来の目的である’The Steppe and the Sea’にはいつ取り掛かれるのか、覚束ない。
 5月某日 雑誌の読書評で紹介されていた『簡易生活のすすめ』を注文。明治時代にシンプルライフを実践した人たちの話だそうで、幸田露伴や芥川龍之介の名前がある。書物に埋もれた印象のある文豪たちがなぜ、どのようにして簡易生活を送ったのか。しかし、どこかで聞いたようなタイトルだと思って本棚を探すと『簡素な生活』(講談社学術文庫)があった。ソーローやウォールデンを読んでいた頃に求めたものか。こちらは翻訳で、経済の豊かさを至上とする欲望に満ちた生活から脱して、より良い人生を送りましょうという、フランス人牧師ヴァグネルの幸福論である。今日では適用外の部分もないではないが、なかなか説得力のあるお説教だ。生活を見直し、身の回りを整えてリセットしたいという気分は洋の東西を問わず、ときどき発生するものらしい。今もその機会なのか。
 5月某日 つい最近リタイアされた京都新聞の記者Nさんから杉本秀太郎氏との交遊の話を聞き、なんとも羨ましくなって著書を再読。フランス文学の大碩学とはもちろん面識はなくて私淑というところだが、明晰にして華麗な文章にあこがれ、何冊かが書架にある。エッセイ集『絵 隠された意味』では、御木本隆三の翻訳になるラスキン全集を断罪しているのが非常に厳しい印象として残っていた。Nさんが数年前に書かれた追悼文は酒場のエピソードを交えて穏やかな人柄を伝えているが、学問上では別のお顔だったかのよう。
 5月某日 表題にひかれて『美術展の不都合な真実』を一読。密集状態での展覧会を避けなければならない今後の施設運営を考える上で示唆に富んだ一冊といえる。人の頭越しに作品を垣間見るだけの展覧会環境が改善されれば観客にとっては喜ばしいことだし、自館の収蔵品の魅力で集客を図るというミュージアム本来のあり方に向かうのなら、今回の騒動はその契機だ。炎天下、会場に向かう長蛇の列は昔語りになるのか。
 5月某日 中田裕二の新作「ダブル・スタンダード」。たまたまFMで「誘惑」という曲を聞いて琴線に触れるものがあり、購入。底流は歌謡曲かAORか、昔、私たちが浸っていた気分を親子ほど違う若い世代の作品に見出すと、例えば森見登美彦の小説もそうだが、楽しくなってくる。いたずらに過去を断ち、捨てるべきではないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

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