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138. リバイバル

 2月某日、畏友N氏から封筒が到着。中はカタログの切抜で、写っているのは当館所蔵の品。エルネスト・リンツイ作のネックレスとイヤリングのセットだ。と思ったがデザインが違う。当方のものはペンダント部の十字架がラテンクロス、つまり縦が横より長い十字だが、写真のものは縦横が等しいギリシャ十字の別バージョン。お礼かたがた電話を入れると、古いカタログを処分していたところ眼についたのでご参考にとのこと。1993年頃に開催されたオークションの由で、とすれば当館が入手した後で市場に出たのだ。知らなかった。この頃はアンティーク・ジュエリー市場も華やかだったのだなと、しばし回顧の想いに耽った。オークションでどこかのどなたかが落札、今もひそかに愛玩されているのだろうか。
 この二連の真珠ネックレスとイヤリングは19世紀後半に興ったルネサンス・リバイバルの流行を体現する好例としてジュエリーの参考書に引用される作品で、両面にエナメルと色石を用い、細部にまで手を凝らした美しい仕上がりが見事だ。イタリア出身の作者はカルロ・ジュリアーノらと同様にロンドンに居を構えて、色彩豊かなジュエリーを得意としたが、残る作品は極めて少ない。では、当館の所蔵品とこのカタログのものはどういう関係だったのだろう。別バージョンとして同じ時期に作られたか、客の反応が良くて追加で作られたか、あるいはオーダーだったかなどと、色んなケースを想像してみる。
 当方の収蔵品には海外の美術館に収蔵されているものの姉妹版とでもいうべき作品がいくつかある。19世紀のイギリスで同様にリバイバル作品を手掛けたロバート・フィリップスのペンダントは大英博物館のハル・グランディ・コレクションに類似の品が入っている。これはエリザベス一世の肖像画に描かれたペンダントにインスパイアされたデザインで、当館のものはサイズから想像するとおそらく普及品、チューダー朝の雰囲気をかろうじて漂わせたというところだろうか。中央から放射状に四個のトルコ石をはめ込んで、下部に雫のような形で真珠をあしらっている。大英博物館に収蔵されているものはサファイアが用いられ、金細工の縄目の文様や白いエナメルなどの細工はまったく同一。他にも別な宝石の選択肢があったかも知れない。
 このような、過去のデザインを下敷きにしたジュエリーは様々なバリエーションで展開されたようだ。1850年、アイルランドで発見された8~9世紀のケルト遺品のデザインに基づく、いわゆるタラ・ブローチもそのひとつ。中心に長いピンを持つ環状の金属で、ブローチの祖先のひとつともいうべき、本来は衣服の前を留める実用品だった。使い方は中央の大きなピンを布に通して、一か所に切れ目のある周囲の環を回して固定する。ダブリンのウォーターハウス社はこのオリジナルを入手。ケルト遺品の発見をビジネスチャンスと見たのか、まず精巧な複製を作って女王陛下に献上。すると嘉せられてめでたく「ロイヤル・タラ・ブローチ」の箱書きがついた。落語「はてなの茶碗」さながらだ。そして普及品を作り、ロンドンをはじめとする各地の博覧会に出品。このあたりの手順はプロモーションの王道ともいえる。
 当館が所蔵するウォーターハウス社のタラ・ブローチには大きな実用のピンがあり、これで衣服に装着する。周囲はケルトの複雑な渦巻き文様で装飾、半分にカットした淡水真珠が添えられている。実のところ、この真珠がなければ当館の収蔵品とは成りえなかった作品だ。
 同様のブローチはウエスト&サンという宝飾店からも出ていて、大小様々、それぞれの懐事情に応じて楽しんだのだろう。前は大英のミュージアムショップや観光地で縮小版のピンブローチを見かけたが、今もあるのかな。

(2021年3月1日)

送られたカタログ

E.リンツイのパリュール

 

 

 

R.フィリップスの
ペンダント

ウォーターハウスの
タラ・ブローチ

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