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152.あこやとしらたま

 真珠最中が見当たらない鳥羽志摩地区で、真珠を思わせる名称を持った菓子として「あこや」がある。今、鳥羽を含めてしまったけれど、正確には志摩市で複数の餅菓子屋が作っているだけだ。もっとも地元スーパーチェーンの店頭に時折並ぶので、伊勢市でも買うことができる。
 このたび求めたのは志摩市船越の大黒屋製菓と磯部町の竹内餅店の製品。それぞれ五個がパックに入って350円也。志摩市布施田の丸八餅店にも同様の品がある。米粉の皮に包まれた餡入りの扁平な団子で表に赤、緑、黄色の小さな飾りが添えられる。餡は漉し餡。皮の舌触りなど味わいは店によって違いがあり、好みがわかれて共存しているのだろう。大黒屋製菓のホームページによれば、「あこや」は古くから地元祭礼の贈答やお盆のお供えに用いられた餅菓子で、三色の飾りは五穀豊穣、表面の凹凸は志摩の海の波、米粒は真珠を意味しているという。
 同じ体裁の菓子は三重県中勢の亀山市にあり、「志ら玉」の名前で宿場町・関の名物となっている。こちらは一個100円。志摩の「あこや」同様に赤、緑、黄の三色が添えられ、餅生地の白色とあわせて四季を表すという。熊野市の「志ら玉」は未実見。写真では上用饅頭のように背が丸く、三色の飾りが見当たらない。また、尾鷲市の須賀利地区ではお盆の霊供膳として13日の昼に落ち着き団子を供える(『美し国みえの食文化』)が、これを「あこや」という。餡入りで、あの世からのご先祖様の長旅をねぎらう甘味だ。写真で見ると菓子の真中に×が記され、盗み食いしようにも憚られる。昭和4年の『宇治山田市史』にも伊勢市にこの名前の餅菓子があると記されている。
 一方、関西方面で「あこや」は雛祭に欠かせない菓子として知られる。季節限定で店頭に並ぶので、今、この時期に入手することはできないが、扁平の餅の上に餡が露出しており、餅の一方が丸く盛り上がって成形された特殊な形状だ。京都の老舗和菓子店ではそれぞれの伝統を引き継ぎ、意匠を凝らした「あこや」を作っている。
 この突起部分については、餅を丸める際に引きちぎったまま置いたことでこのようになったといい、「引千切」(ひちぎり)の名前でも呼ばれる。ここを丸く成形して真珠に見立てるか、あるいは貝殻の蝶番と見るか、いずれにしても真珠貝を意識した形状であることは間違いない。
 けれども「あこや」はもともと貝殻のことではなかった。虎屋文庫の中山圭子さんは『和菓子おもしろ百珍』(淡交社)のなかで『日葡辞書』の記述を引いて「あこや:米の粉で作った小さな団子の一種」と紹介し、17世紀当時は甘い餡が広まる前で、真珠のように小さな団子をそう呼んだのだろうと考察している。元禄12年成立の契沖『円珠庵雑記』に「伊勢には、女のわざに小さく美しき団子を売り歩くとて、あこやあこや召さぬかという由、ある人語り侍りき。あこや玉に似たる故に、名を移せるなるべし」とあり、上記の裏付けとなっている。
 その後一般に小豆餡が出回るようになる。団子に甘い餡を包めば菓子としては魅力的だが、必然的に体積は大きくなり、小粒の真珠のイメージから遠くなってしまう。そこで扁平にして貝殻に似せる工夫を凝らし、「あこや」の名跡を受け継ぐことにした。元々の小さく美しい団子は「しらたま」の名で別の一家を成して、今では本家をしのぐ勢い、というのは我が妄説。
 「あこや」の名称については諸説あるようだが、個人的に一番納得できるのは「吾子や」、つまり、吾が子よ、と愛おしい対象に向っての呼びかけとした谷川士清の解釈(『和訓栞』)で、西川藤吉もこの説を採用している。小さな美しい真珠を愛おしく捉えた先人の豊かな感性を思うべし。
 京都の「あこや」と関の「志ら玉」、志摩の「あこや」がどのような関係にあるのか、他の地域にこの名前の菓子が伝わっているのかなど興味は尽きない。いずれにしても、真珠の産地あるいは集散の地であった伊勢や志摩は餅菓子にもその名前を留める程、真珠が身近だったということはできるだろう。現今の「あこや」はその伝統を継承していると考えれば、もう少し光を当ててやっても良さそうに思うが如何。

(2022年4月29日)

 

 

 

大黒屋製菓店の「あこや」

 

竹内餅店の「あこや」

 

上:大黒屋製菓店製
下:竹内餅店製

大黒屋製は米粒が付き、
三色が濃厚

それぞれの断面

 

京都方面の「あこや」は
大体こんなかたち(自家製)

 

「しらたま」は甘味の名脇役
イチゴジャムに添えても
(自家製)

 

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